SSブログ

次のステージへ - ホンモノの庭とニセモノの庭、植え替えということ [├ガーデニング・エッセイ]

何事につけても「ステージ」というのがある。段階とかレベルとか言ってもいい。小説や舞台なら「章」や「幕」あるいは「場面」。パラダイムというと、ちょっと大げさか。

「国際バラとガーデニングショウ」に行って、ガーデナーとしての自らのステージが変わっていることに気がついた。パラダイムシフトは、変化した後でないと気がつかない。

そもそも「国際バラとガーデニングショウ」に行ったのは、単に有名なイベントで行ってみたい、という気持ち以上の、もっと切実とした想いがあったからだった。

時は少しさかのぼり、2003年ごろのこと。ガーデニングに行き詰まりを感じていた。ガーデニングにハマったときの初期の高揚は過ぎ去り、実家の庭は当初計画していた構想をほぼ実現し、自分の庭も持ち、順風満帆に思えたころ、ふと気がついた空虚だった。何かが足りない、そう思えた。

その「何か」を求めるために「国際バラとガーデニングショウ」に行ってみよう、と思った。だけど、2004年には「浜名湖花博」があり、2005年には「花フェスタ2005ぎふ」があり、結局2006年になってしまった。このブログを始めたのも、その「何か」を求めるために、自分の考えを整理しようと思ったからでもあった。

初めて行った「国際バラとガーデニングショウ」は、予想通りすばらしいものだった。展示されている庭のレベルの高さは、目を見張るモノが確かにある。でも、物足りなさは埋まらなかった。「見たいのはこれじゃない。ホンモノの庭だ。」一緒に行った母に、そう言った。

それから、ふと出た「ホンモノの庭」という言葉が、頭を離れない。

ショウのあれは「ニセモノの庭」だと思う。一週間のイベントのために造られた、終われば取り壊されてしまう庭だ。連休に行った浜名湖フラワーフェスタ2006で展示されていた庭に対する物足りなさも同種のものだろう。決して、田舎のイベントでレベルが低い、というだけでもなかったのだ。

「ニセモノ」と思ってしまう、ひとつの理由は、植栽にある。すばらしいバランスで植栽されているが、そのまま育てたらどうなるだろう?たとえばアサギリソウ。今の時期は背が低く、銀葉が美しい。だけど、これから夏に向かって背が伸びてくる。手前に植えていたあれらの庭では、そのころどうなるのだろう?

「植え替える」という方法がある。有料の庭園や公園であれば、季節に合わせて植え替えをする。季節ごとの見場を維持するためだ。イベントではあるが浜名湖花博が典型的だろう。植えてある、まだ咲いている大量の花を抜き、新しい花を植えていく。近場だったので毎週のように通ったが、一週間で花壇の植栽はまったく変わってしまう。

その花博で夏(8月くらいだと思う。暑い夏だった)のある日、休憩していると、隣に座っていた年配の夫婦の話し声が聞こえてきた。

おばさん: 思ったより花があるわね。
おじさん: 植え替えているみたいだぞ。
おばさん: うそよ~。こんな時期に植え替えても付かないもの!!
おじさん: (小さな声で)植え替えていたぞ・・・

おじさん、あなたは正しい。もっと自信を持っていい。おばさん、あなたの言っている事は間違っていないが、イベントというものを理解していない。根付かせるつもりなんてもともとないのだ。

「花博の最終日には、植えてある苗がもらえる」といううわさを聞いた。会期中、さんざん植え替えていても、抜いた苗を配ったという話は聞かない。最終日だけ、特別そんなことをする理由がない。「デマだよ」と一蹴した。明らかにデマだとわかるうわさが流れる。それは、事情を知らないからか、それとも知っていてさえ、やはりもったいないと思う気持ちがあるからか?

浜名湖花博は、園芸としては私にさまざまなものを残してくれた。だけど、ガーデニングとしては、空虚が埋まることはなかった。花博であって、庭博ではなかったのだ。

うちのフロントガーデンは、一年草で季節ごとに植え替えていた。植え替えは、5月の連休と10月末くらいの年二回。小さい花壇だから、植え替えの作業自体はたいしたことはない。だけど、そのころにはまだ花が咲いていて、一年草といえどなかなか抜けない。とはいえ、次を植えないと、成長が遅れてしまう。毎回、そのジレンマだった。今年の春を最後に、それを止めることにしたのは、季節ごとに植え替えるのが精神的に難しいからでもある。

たぶん、「植え替え」という方法に、なんらかの違和感があったのだと思う。

それを気がつかせてくれたのは「ポール・スミザーの四季のガーデン生活」というテレビ番組、そして彼の造った「宝塚ガーデンフィールズのシーズンズ」という庭だ。

ポールさんの庭づくりでは、雑草対策をしっかりやり、園芸品種を避け、原種系を好み、その土地にあった植物を使う。それは、草取りや花柄つみなど、普段のメンテナンスにかかる手間を減らし、より重要な(そして楽しい)メンテナンスに時間をかけるためではないかと思う。

プロならば、この短期間で植栽し、オープンと同時に観光客をうならせるほどに花を咲かせる、一時的な植栽法も知っているはずです。でも、ポールさんは庭を本当に美しいものにするためには植物に無理をさせてはいけないと思いました。・・・<略>・・・結果、開園時は土の目立つややさびしいガーデンで、「入園料を返せ」とまで言われました。

今では、開園時のガマンが功を奏して、38種類植えたバラも見事に育ち、日本では数少ない、バラがバラらしく魅力的な姿を見せるガーデンになりました。

(ビズ No.42 P.73)

ポールさんもすごいんだが、それを認めた経営者も英断だと思う。もしかしたら、ポールさんにだまされたのかもしれないが。:-P

「シーズンズ」という庭は、成長する庭なんだと思う。「植え替え」という方法で得る目先の変化ではなく、植物が育つことによる本当の成長、そして、その成長を効果的に見せるためにある庭。

     ・
     ・
     ・

「ホンモノの庭」とは何だろう?それを考えていたら、空虚が埋まっていることに気がついた。明らかに新たなステージに上がったのだと確信できる。おそらくこの隙間は、庭への取り組みの方向性の欠如だったのだろう。庭づくりにはハマっていても、「イングリッシュガーデン風の」とか「ハーブ・ガーデン」とか「バラ」とか、特定の、目指すべきテーマは持っていなかった。どういう庭が造りたいのか、自分でもよくわかっていなかったのだ。結論はまだ出ていない。でも、ヒントはある。

※念のために補足しておくと、「植え替えをベースとする庭」を「ニセモノの庭」だと思っているわけではないです。


nice!(3)  コメント(8)  トラックバック(1) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 3

コメント 8

チョコまる

ほう、ほう。難しいですが、なんとなく言わんとするところはわかるような気がします。イベントでは一瞬の美を見せる庭ですからね。
うちの庭も、一年草を植えなくなりました。単に植え替えの手間が面倒くさくなっただけですが…
by チョコまる (2006-05-30 22:53) 

いむら@fintopo

私の頭の中でぐるぐるしていることのうち、少し言葉になりそうな部分を取り出して並べただけですから、なんとなく分かってもらえるなら重畳です。
自分なりにもう少し理解が進んだなら、これから造る庭に反映されることでしょう。たぶん。
by いむら@fintopo (2006-05-31 18:47) 

そうですよね~。
庭ってなると、生き物が植わっているので悩む事がありますよね。
生きている植物をごっそり抜くのも気が引けますよね~。
私もその口です。
だから、こぼれ種って大好きです。
結局自分のスタイルなのかな?
難しいですね(━_━)ゝウーム
by (2006-05-31 20:50) 

いむら@fintopo

生き物なので難しいけど、だからこそ面白いとも言えるんでしょうね。
まぁ、徐々に噛み砕いていきたいと思います。それが結局自分のスタイルになるんでしょう。
by いむら@fintopo (2006-05-31 21:53) 

Ryu

Ryuです。おはようございます。今日は朝からとても中身の濃い記事を読ませていただきました。出来るだけ宿根草や多年草を植え、イメージチェンジはパンジーやポーチュラカなど安い植物でまかなうっていう方法が良いのではないでしょうか?ガーデニングのガもわかっていませんが、少し考えさせられました。
by Ryu (2006-06-02 07:40) 

いむら@fintopo

Ryuさん、こんにちは。朝から濃い内容ですみません。:-)

そうですね。植え込むのは宿根草で、一年草はプランターで育てようと考えています。プランターなら、季節に応じて入れ替えもできますしね。
by いむら@fintopo (2006-06-02 18:17) 

せり

私はいむらさんのこういう記事が好きなんです。最初にブログめぐりしていた時も、こういう事を論じている記事って見かけませんでしたから。その場だけ綺麗に飾った庭ではなく、一緒に育っていく庭がやっぱりいいですね。ポールさんの庭では、メドーガーデンに一年草の種を花咲か爺さんの様に蒔いて、その後こぼれ種で増えるのを、自生したように見せると言う事もやっていて、感心したのを思い出しました。場所にあった植栽をするのが基本ですが、それを見極めるのが難しいなと実感する今日この頃です。
by せり (2006-06-02 22:17) 

いむら@fintopo

書いていて気がつくこと、後で読んで気がつくこと、ってたくさんあって、面白いです。そういう内容を楽しんでもらえるとうれしいですね。こういうのが書きたくてブログをやってるといってもウソじゃないですから。
ネタはまだあるんですが、なかなかまとまらないので、まぁ、ぼちぼちと書いていきます。
by いむら@fintopo (2006-06-03 15:00) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。